「これじゃ、よく見えないな。佐伯が処女でいられる最後の一時なんだから、ちゃんと記録を残してやろうよ。松原、こっちから足を抑えてくれ」
「分かった」 頷くと松原は、それまで頭側にあった体を臀部方向に動かし、そちら側から足を固定した。放された一瞬の隙を見て彼らを蹴り上げでもすれば良かったのかもしれないが、体がまともに動かなかった。 移動すると松原は、両足を片手で押さえつけ、尻の穴を露出させる作業に荷担した。そのことにより一層肛門が晒される。二人の視線をその一箇所に感じ、佐伯はぎゅっと唇を噛んだ。 (ゴキブリ以下のゴミクズ……? 俺が? この俺が!?) 先ほど木戸が言ったことのショックが未だに尾を引いていた。佐伯は自身の容姿に多大な自負を持っている。その自分のことを、ゴキブリ以下だと言ったのだ。酷すぎる。 幾度となくシャッターが切られる音がする。 「うわ、本当だ。さっき木戸が言った通りのケツ穴だな。分かるか、佐伯? 見るからに固そうだぜ」 「ぎゃあっ!」 松原が笑い、ついに指をその部分に伸ばしてきた。これまでは見ているだけだったのだ。けれどついに、実際に触れてきた。その感覚は今までに受けたことのない異様なものだった。あり得ない部分に指を添えられ、体が跳ねる。 「そろそろやっちまおうぜ。おい、ビデオ持ってきてくれよ」 「はいはい」 松原が言うと木戸が立ち上がる。それから何かを引きずる音がしてきた。ずる、ずるという音は次第に近づいてくる。 「ビデオ!?」 カメラでこんなに、パシャパシャと何度となく撮っておいて、ビデオまで用意していたというのか。叫ぶ佐伯に二人は笑った。 「そう、ビデオもあったんだよ。さっきからずっと設置してる。写真もビデオも、後から見せてやるからな?」 「うっ、嘘だ!」 「何が嘘なんだよ。本当だって、ほら」 言うと松原は、ビデオを一時的に佐伯に近づけ見せつけた。佐伯ははっきりと見てしまう。RECの部分にランプがちゃんとついていたことを。 (撮られてる……! ビデオでまで、こんなとこを!) 松原はビデオを置き直すついでに、位置や角度、高さを調整しているらしかった。足の狭間からレンズの方向が見えた。レンズは明らかに尻の間、アヌスに照準を合わせていた。 そのとき、ぬるりと何かが滑り込んできた。 「ひっ、ぎゃあ!」 ぬめった感触と、肛門に入り込んできた感覚の異様さに佐伯は声を上げる。入ってきたのは木戸の指だった。彼は指先に潤滑剤をつけ、尻の間に指を入れてきたのだ。 「ひいい、うあ、あああっ、ああ!」 入れて即座に彼の指はぬぷぬぷと深く侵入してきた。内臓に直接触れられている気持ちの悪さに勝手に声が出る。あり得ない部分に強引に異物が侵入してくるその感触、佐伯は情けなくじたばたと暴れた。 「足を押さえっぱなしっていうのも疲れるな。おい、手錠外してやるから四つんばいになれ。カメラに向けて、自分でケツの穴を開くんだ」 じゅぷっ、じゅぷっと下肢から淫猥な音がしてくる。その音に耳を塞ぎたくなっているとき、松原が命令をした。奴は何を言っているんだ――。自分からカメラに向かって肛門を開く? そんなこと、できるはずがない! 「ひう、や、っやる、かよ、そんな……あああ! っこと!」 拒否をする間にも木戸の指は無遠慮に内部を開いていく。一本の指を奥まで突き刺し、それをゆっくり抜き、また差す。それに飽いたら中でぐるぐる掻き回す。佐伯は異物感に全く慣れていないというのに、気を遣うつもりなど全くないような動きである。 「へー、嫌なんだ? だったらいいよ。言うこと聞かないなら、いきなり突っ込むだけだから」 「何……!?」 木戸が冷酷な口調で宣言をした。とんでもない発言に、佐伯は思わずぎゅっと強く指を締め付けてしまう。木戸が笑う。 「そう。まだ指一本でぎゅーって締めてきてるこの場所に、今すぐチンポ突っ込むよ。別に俺らとしてはそれでもいいし。あんたが言うこと聞けば、その分だけ慣らして痛くなくしてやろうってだけで」 血の気が引いていきそうだった。こんな部分にペニスなんて、無理に決まっている。だがとても冗談を言っているような口調ではない。本気なのだ。佐伯が言うことを聞かなかったら、彼らは本気で今すぐに挿入してくるつもりなのだ。 「ま、待て、やるっ、やるから!」 ついに佐伯は要求を受け入れた。どうせ掘られるなら慣らしてもらった方が、というわけではない。ただ、今すぐに突っ込まれるよりは引き延ばした方がマシだからこう言っているのだ。言うことを聞けばもしかしたら、途中で反撃のチャンスができるかもしれない。その機会もなくいきなり強姦されてしまったら、もう終わりだ。 「じゃあ、やれよ。ちゃんと撮っててやるから」 木戸が指を抜き、松原も足を押さえていた手を離す。そして腕を縛っていた縄が解かれた。これで体は一応自由だ。けれど二人に反撃をする気にはなれない。一対二だ、勝てるはずがないに決まっている。抵抗をしたら彼らは激昂して何をしてくるか分からない。 佐伯は嫌々ながら、体の向きを変え、四つんばいになった。 「ケツ開けよ」 ヤジが飛ぶ。佐伯はいくらか躊躇した。さすがに、その行為をためらいなくすることはできない。けれど時間を掛けたところで奴らの機嫌を損ねてしまうだけだ。 佐伯はぎゅっと強く目を瞑った。まるでそうすればビデオに映らないとでも思っているかのように。縛られ続けて痛む手を使い、思い切って両の尻を自分で割り開く。先ほどローションをつけた指を挿入されたせいで、開くと間にぬめった感触があって気色が悪い。ぬちゅぬちゅと液体が穴の中に絡んでいく。 (う……) そうして誰もが口を閉じると、ビデオカメラが回る音がよく聞こえてきた。本当に撮られているのだと実感が沸いてくる。自分から尻の穴を見せつけている様子が、あのカメラに。 「ひゃはは! こいつ必死でカメラにケツ向けてるよ、馬鹿じゃねーの!」 「もっと奥まで開けよ、ほら」 「いっ!」 命令するなり木戸が、足で尻を蹴ってきた。抗いようもなく佐伯はその場に倒れ込んでしまう。 「起きあがれよ、こら! 休んでんじゃねえぞ!」 松原が怒鳴りつけ、乱暴に髪を引っ張って体を起こそうとしてきた。ただ倒れただけだというのに、この気迫。――逆らったら本当に殺されかねない! これからどうなるのかという恐ろしさが体中に広がり、体が動かなくなりそうだった。だが佐伯は必死で体勢を戻す。 「け、蹴るな、蹴らないでくれ、やるから! また、やるからさあ!」 声は引きつり、裏返った。その情けない声音に自分で衝撃を受ける。二人はにやつきながら佐伯のことを見ていた。 ぶるぶる震える手で再び、カメラに向かった尻を開く。そのカメラに今、どんな絵が映っているのか想像すると泣いてしまいそうだった。もうこれで充分だろう。早く解放して欲しい。 「気色悪いなあ。恥ずかしくないのかよ、ビデオにケツの穴なんか撮らせてさあ」 「よっぽどのイロキチなんだな」 馬鹿にしたように二人があれこれと言ってくる。そのたびにどうしようもない気持ちになった。彼らは、ただ突っ立っているだけではない。ビデオカメラの側に立って、格好悪い姿勢で四つんばいになっている佐伯のことを、そしてその肛門をじっと観察しているのだ。顔を背けていても視線は感じる。刺さりそうなほどの眼差しがその部分に注がれているのが分かって、佐伯は表情を歪めた。 「おい、俺が先でいいだろ? 彼女のことやられた腹いせだ。あのときこいつに言われたみてえにしてやんなきゃ、気持ちが収まんねえ」 「いいよ。好きにやっちゃってください」 しばらくそうして耐えていたところで、松原と木戸がそんな会話を始めた。ついにそのときが来たのだ。ひっ、と喉が鳴る。逃げなくては! 今すぐに、ここから! 慌てて佐伯は四つんばいの体勢のまま床を這い、そして立ち上がろうとした。けれど立てない。ずっと無理のある体勢でいた上に気が急きすぎて、足がもつれてしまったのだ。 「っぎゃふ!」 必死に逃げようとした上に転んで床に鼻をぶつけた佐伯を見て、彼らがまた笑い声を上げる。松原が近づいてくる足音がする。すぐ側まで奴は来た。 「ひっ! やめ、やめろよ!」 めちゃくちゃに彼を殴ろうとし、手を振り上げる。けれど抵抗はあっさり封じられた。そして頭を掴んで床に押しつけられ、這い蹲るような姿勢にさせられる。 「やめろ!? てめえ、んなこと言えた立場かよ! くそっ! 夏美にあんなことしやがって!」 その名前に聞き覚えはなかった。これまで数人どころではない女と遊んできたのだ、一人ひとりの名など覚えていない。けれど彼の言い方で分かった。夏美という子が、自分が松原から奪った後輩だったのだと。 「ああ――…っ!」 尻だけを上げさせたまま松原が、指を一気に二本、ずぶりと勢いよく全て埋め込ませてきた。先ほど木戸に入れられた指はたったの一本だったのだ。それが一息に倍になり、しかも動揺しているうちに、奥まで。叫ばずにはいられなかった。 「ひいい、やめっ、やめてくれ! 痛てえ! 気持ちわりいよお!」 「おまえは夏美がやめてって言っても止めなかったんだろ!?」 松原は、二本の指を勢いよく抜き差しし始めた。ぐじゅっぐじゅっぐじゅっと動きに合わせた水音が肛門からする。入るときにも抜かれるときにも、今まで味わったこともない、体内を直接掻き回される感触がして佐伯はひいひい叫んだ。 「やめろよ! 確かにあの子、最初は嫌がってたけど、結局俺と付き合ったじゃねえかあ! だから、む、無理矢理だったかもしんないけど、でも、結局は、よろこん、で……ぎゃあっ!」 そこまで言ったところで、ばしんと尻を叩かれた。右手の指は挿入されたままで。痛みに佐伯は強く穴を締めた。松原が、ズボンのチャックを開けている金属音がしてくる。 「ああ、夏美を取られたのは仕方がない、……悔しいけどあいつにとってはおまえの方が良かったってことなんだろう。でもな! 強引に犯した上にそれを笑い物にして、あっさり捨てたてめえのことは、どうしたって許せねえんだよ!」 痛みや衝撃に、動くことすらできない。それでも彼が言い終わってすぐに指が抜かれていった。まだ妙な感じはするけれど、佐伯はひとまずほっとした。けれどそれは、終わりの合図などではなかったのだ。 松原がズボンの前をくつろげたまま、佐伯の顔近くまでやって来た。その股間を見て、先はひっとまたも声を裏返らせた。 彼のズボンの間は、緩めたズボンと下着越しでも分かるくらいに、張っていた。勃起しているのだ。それもギンギンに。しかもその膨らみ方が半端ではなかった。中にどれだけの質量があるというのか。恐ろしい疑問はすぐに解消された。 「佐伯、てめえ、あの翌日俺に何て言ったか覚えてるか? ……覚えてねえだろうなあ。今度は俺が、てめえの処女もらってやるよ!」 怒鳴りながら松原が、下着の中からそれを取りだした。顔の間近にそれを見せつけられ、佐伯は驚愕に顔を歪めた。 彼のペニスは大きかった。太さも長さも平均よりずっと上で、しかも真ん中のあたりから大きく反り返って天を向いていた。幹には血管が走り、亀頭は大きく開いて、一目見ただけで堅さが分かるほどに中身がずっしりと詰まっていた。 「……佐伯なんか相手に勃つかよって思ってたけど、はは、意外と何とかなるもんだな。覚悟はいいかよ」 「ビデオもオッケーだよー。ばっちり見えてる」 少し離れた場所から木戸も声を掛けてくる。彼は、緊迫した状況だというのに、まるで佐伯の心情など知らず楽しげな様子だった。 (冗談じゃねえ、あんなもん入れられたら、死んじまう!) 佐伯は無我夢中で取り繕い始めた。 「ごめん! 悪かったよ、ごめん、松原! 俺が悪かったから! だから許してくれ! そんなの入れないでくれえ!」 「へえ? 本当に、悪いと思ってんのかよ」 ぴたり。アヌスに、堅く熱い大きなものが押し当てられる。このまま力いっぱいに進まれたら入ってきてしまいそうだ。 「思ってるよ、ほんと悪かった! マジ謝るから! だからっ!」 「だったら、こう言えよ」 松原は汚いものでも見るかのように蔑みながら顔を近づけ、耳元で囁いてきた。それはとんでもない内容だった。けれど、言わなければ、掘られてしまう。男なんかにレイプされてしまう。恥ずかしさなど忘れ、佐伯は言った。 「お、俺、松原の彼女のことはヤっちゃったけど、自分は処女……でいたいんです、チンコ入れないでください、い」 まさか、男だっていうのに自分を『処女』などと言う日が来るなどということは、思ってもみなかった。 言うことを聞いたというのに松原は暫し無言だった。 「許して……」 その沈黙が恐ろしく、半泣きになって懇願する。それから松原は、喉の奥で笑った。一瞬の間。 「駄目だね」 「――っぎゃあっ、あっ! ああああああ! うああああっ!」 何の気遣いも断りも、それ以上慣らすこともなく。一突きであの強大なペニスは、佐伯の中へと入ってきた。 |